2006-10-08 君が花 詩 石川啄木 君くれなゐの花薔薇《はなさうび》、 白絹《しらぎぬ》かけてつつめども、 色はほのかに透《す》きにけり いかにやせむとまどひつつ、 墨染衣袖かへし 掩へどもともいや高く 花の香りは溢れけり。 ああ秘めがたき色なれば、 頬《ほゝ》にいのちの血ぞ熱《ほて》り、 つつみかねたる香りゆゑ 瞳《ひとみ》に星の香《か》も浮きて、 佯《いつ》はりがたき恋心《こひごゝろ》、 熄《き》えぬ火盞《ほざら》の火の息に 君が花をば染めにけれ。 (九月五日夜) 目次に戻る