君が花

君くれなゐの花薔薇《はなさうび》、
白絹《しらぎぬ》かけてつつめども、
色はほのかに透《す》きにけり
いかにやせむとまどひつつ、
墨染衣袖かへし
掩へどもともいや高く
花の香りは溢れけり。

ああ秘めがたき色なれば、
頬《ほゝ》にいのちの血ぞ熱《ほて》り、
つつみかねたる香りゆゑ
瞳《ひとみ》に星の香《か》も浮きて、
佯《いつ》はりがたき恋心《こひごゝろ》、
熄《き》えぬ火盞《ほざら》の火の息に
君が花をば染めにけれ。

(九月五日夜) 

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