2006-10-08 波は消えつつ 詩 石川啄木 波は消えつつ、砕けつつ 底なき海の底より湧き出でて、 朝より真昼《まひる》、昼《ひる》より夜に朝に 不断《ふだん》の叫びあげつつ、帯《をび》の如、 この島根《しまね》をば纒《まと》ふなり。 ああ詩人《うたびと》の興来《きようらい》の 波も、消えつつ、砕けつつ。 はかり知られぬ『秘密』の胸戸《むなど》より、 劫風《ごふふう》ともに千古の調にして、 不滅の教宣《の》りつつ、勇ましく 人の心の岸には寄するかな。 (九月十二日夜) 目次に戻る