2006-07-01から1ヶ月間の記事一覧

天上縊死

遠夜に光る松の葉に、 懺悔《ざんげ》の涙したたりて、 遠夜の空にしも白ろき、 天上の松に首をかけ。 天上の松を恋ふるより、 祈れるさまに吊されぬ。 目次に戻る

つみとがのしるし天にあらはれ、 ふりつむ雪のうへにあらはれ、 木木の梢にかがやきいで、 ま冬をこえて光るがに、 おかせる罪のしるしよもに現はれぬ。 みよや眠れる、 くらき土壌にいきものは、 懺悔《ざんげ》の家をぞ建てそめし。 目次に戻る

あふげば高き松が枝に琴かけ鳴らす、 をゆびに紅をさしぐみて、 ふくめる琴をかきならす、 ああ かき鳴らすひとづま琴の音にもつれぶき、 いみじき笛は天にあり。 けふの霜夜の空に冴え冴え、 松の梢を光らして、 かなしむものの一念に、 懺悔《ざんげ》の姿…

林あり、 沼あり、 蒼天あり、 ひとの手にはおもみを感じ しづかに純金の亀ねむる、 この光る、 寂しき自然のいたみにたへ、 ひとの心霊《こゝろ》にまさぐりしづむ、 亀は蒼天のふかみにしづむ。 目次に戻る

すえたる菊

その菊は醋《す》え、 その菊はいたみしたたる、 あはれあれ霜つきはじめ、 わがぷらちなの手はしなへ、 するどく指をとがらして、 菊をつまむとねがふより、 その菊をばつむことなかれとて、 かがやく天の一方に、 菊は病み、 饐《す》えたる菊はいたみたる…

光る地面に竹が生え、 青竹が生え、 地下には竹の根が生え、 根がしだいにほそらみ、 根の先より繊毛が生え、 かすかにけぶる繊毛が生え、 かすかにふるえ。 かたき地面に竹が生え、 地上にするどく竹が生え、 まつしぐらに竹が生え、 凍れる節節りんりんと…

ますぐなるもの地面に生え、 するどき青きもの地面に生え、 凍れる冬をつらぬきて、 そのみどり葉光る朝の空路に、 なみだたれ、 なみだをたれ、 いまはや懺悔《ざんげ》をはれる肩の上より、 けぶれる竹の根はひろごり、 するどき青きもの地面に生え。 目次…

草の茎

冬のさむさに、 ほそき毛をもてつつまれし、 草の茎をみよや、 あをらみ茎はさみしげなれども、 いちめんにうすき毛をもてつつまれし、 草の茎をみよや。 雪もよひする空のかなたに、 草の茎はもえいづる。 目次に戻る

地面の底の病気の顔

地面の底に顔があらはれ、 さみしい病人の顔があらはれ。 地面の底のくらやみに、 うらうら草の茎が萌えそめ、 鼠の巣が萌えそめ、 巣にこんがらかつてゐる、 かずしれぬ髪の毛がふるえ出し、 冬至のころの、 さびしい病気の地面から、 ほそい青竹の根が生え…

竹とその哀傷

詩集例言

一、過去三年以来の創作九十余編中より叙情詩五十五編、及び長編詩編二編を選びてこの集に納む。集中の詩編は主として「地上巡礼」「詩歌」「アルス」「卓上噴水」「プリズム」「感情」及び一、二の地方雑誌に掲載したものの中から抜粋した。その他、機会が…

詩の表現の目的は単に情調のための情調を表現することではない。幻覚のための幻覚を描くことでもない。同時にまたある種の思想を宣伝演繹することのためでもない。詩の本来の目的はむしろそれらの者を通じて、人心の内部に震動《しんどう》する所の感情その…

萩原君。 何と言っても私は君を愛する。そして室生君を。それは何と言っても素直な優しい愛だ。いつまでもそれは永続するもので、いつでも同じ温かさを保ってゆかれる愛だ。この三人の生命を通じ、よしそこにそれぞれ天稟《てんぴん》の相違はあっても、何と…

月に吠える(1)

目次*1 序 序 詩集例言 竹とその哀傷 地面の底の病気の顔 草の茎 竹 竹 すえたる菊 亀 笛 冬 天上縊死 卵 雲雀料理 感傷の手 山居 苗 殺人事件 盆景 雲雀料理 掌上の種 天景 焦心 悲しい月夜 かなしい遠景 悲しい月夜 死 危険な散歩 酒精中毒者の死 干からび…