2006-12-01から1ヶ月間の記事一覧

青空に飛び行く

かれは感情に飢ゑてゐる。 かれは風に帆をあげて行く舟のやうなものだ かれを追ひかけるな かれにちかづいて媚をおくるな かれを走らしめろ 遠く白い浪のしぶきの上にまで。 ああ かれのかへつてゆくところに健康がある。 まつ白な 大きな幸福の寝床がある。…

腕のある寝台

綺麗なびらうどで飾られたひとつの寝台 ふつくりとしてあつたかい寝台 ああ あこがれ こがれいくたびか夢にまで見た寝台 私の求めてゐたただひとつの寝台 この寝台の上に寝るときはむつくりとしてあつたかい この寝台はふたつのびらうどの腕をもつて私を抱く…

蝶を夢む

座敷のなかで 大きなあつぼつたい翼《はね》をひろげる 蝶のちひさな 醜い顔とその長い触手と 紙のやうにひろがる あつぼつたいつばさの重みと。 わたしは白い寝床のなかで眼をさましてゐる。 しづかにわたしは夢の記憶をたどらうとする 夢はあはれにさびし…

蝶を夢む 詩集前篇

この章に集めた詩は、「月に吠える」以後最近に至るまでの作で「青猫」の選にもれた分である。但し内八篇は「青猫」から再録した。

詩集の始に

この詩集には、詩六十篇を納めてある。内十六篇を除いて、他はすべて既刊詩集にないところの、単行本として始めての新版である。 この詩集は「前篇」と「後篇」の二部に別かれる。前篇は第二詩集「青猫」の選にもれた詩をあつめたもの、後篇は第一詩集「月に…

蝶を夢む

目次 詩集の始に 蝶を夢む 詩集前篇 蝶を夢む 腕のある寝台 青空に飛び行く 冬の海の光を感ず 騒擾 群集の中を求めて歩く 内部への月影 陸橋 灰色の道 その手は菓子である その襟足は魚である 春の芽生 黒い蝙蝠 石竹と青猫 海鳥 眺望 蟾蜍 家畜 夢 寄生蟹の…