2005-02-24 さびしき野辺 詩 立原道造 いま だれかが 私に 花の名を ささやいて行つた 私の耳に 風が それを告げた 追憶の日のやうに いま だれかが しづかに 身をおこす 私のそばに もつれ飛ぶ ちひさい蝶らに 手をさしのべるやうに ああ しかし と なぜ私は いふのだろう そのひとは だれでもいい と いま だれかが とほく 私の名を 呼んでゐる……ああ しかし 私は答へない おまへ だれでもないひとに 目次に戻る