2005-02-24から1日間の記事一覧

夢見たものは……

夢見たものは ひとつの幸福 ねがつたものは ひとつの愛 山なみのあちらにも しづかな村がある 明るい日曜日の 青い空がある 日傘をさした 田舎の娘らが 着かざつて 唄をうたつてゐる 大きなまるい輪をかいて 田舎の娘らが 踊りををどつてゐる 告げて うたつ…

樹木の影に

日々のなかでは あはれに 目立たなかつた あの言葉 いま それは 大きくなつた! おまへの裡【うち】に 僕のなかに 育つたのだ ……外に光が充ち溢れてゐるが それにもまして かがやいてゐる いま 僕たちは憩【いこ】ふ ふたりして持つ この深い耳に 意味ふかく…

午後に

さびしい足拍子【あしびようし】を踏んで 山羊【やぎ】は しづかに 草を食べてゐる あの緑の食物は 私らのそれにまして どんなにか 美しい食事だらう! 私の飢ゑは しかし あれに たどりつくことは出来ない 私の心は もつとさびしく ふるへてゐる 私のをかし…

また昼に

僕はもう はるかな青空やながれさる浮雲のことを うたはないだらう…… 昼の 白い光のなかで おまへは 僕のかたはらに立つてゐる 花でなく 小鳥でなく かぎりない おまへの愛を 信じたなら それでよい 僕は おまへを 見つめるばかりだ いつまでも さうして ほ…

朝に

おまへの心が 明るい花の ひとむれのやうに いつも 眼ざめた僕の心に はなしかける 《ひとときの朝の この澄んだ空 青い空 傷ついた 僕の心から 棘【とげ】を抜いてくれたのは おまへの心の あどけない ほほゑみだ そして 他愛もない おまへの心の おしやべ…

また落葉林で

いつの間 もう秋! 昨日は 夏だつた……おだやかな陽気な 陽ざしが 林のなかに ざわめいてゐる ひとところ 草の葉のゆれるあたりに おまへが私のところからかへつて行つたときに あのあたりには うすい紫の花が咲いてゐた そしていま おまへは 告げてよこす 私…

夢のあと

《おまへの 心は わからなくなつた 《私の こころは わからなくなつた かけた月が 空のなかばに かかつてゐる 梢のあひだに―― いつか 風が やんでゐる 蚊の鳴く声が かすかにきこえる それは そのまま 過ぎるだらう! 私らのまはりの この しづかな夜 きつと…

さびしき野辺

いま だれかが 私に 花の名を ささやいて行つた 私の耳に 風が それを告げた 追憶の日のやうに いま だれかが しづかに 身をおこす 私のそばに もつれ飛ぶ ちひさい蝶らに 手をさしのべるやうに ああ しかし と なぜ私は いふのだろう そのひとは だれでもい…

落葉林で

あのやうに あの雲が 赤く 光のなかで 死に絶えて行つた 私は 身を凭【もた】せてゐる おまへは だまつて 脊を向けてゐる ごらん かへりおくれた 鳥が一羽 低く飛んでゐる 私らに 一日が はてしなく 長かつたやうに 雲に 鳥に そして あの夕ぐれの花たちに …

爽やかな五月に

月の光のこぼれるやうに おまへの頬に 溢れた 涙の大きな粒が すぢを曳いたとて 私は どうして それをささへよう! おまへは 私を だまらせた…… 《星よ おまへはかがやかしい 《花よ おまへは美しかつた 《小鳥よ おまへは優しかつた ……私は語つた おまへの…

序の歌

しづかな歌よ ゆるやかに おまへは どこから 来て どこへ 私を過ぎて 消えて 行く? 夕映【ゆふばえ】が一日を終らせよう と するときに―― 星が 力なく 空にみち かすかに囁きはじめるときに そして 高まつて むせび泣く 絃【いと】のやうに おまへ 優しい歌…

優しき歌

目次 序の歌 Ⅰ 爽やかな五月に Ⅱ 落葉林で Ⅲ さびしき野辺 Ⅳ 夢のあと Ⅴ また落葉林で Ⅵ 朝に Ⅶ また昼に Ⅷ 午後に Ⅸ 樹木の影に Ⅹ 夢見たものは……