眺望

      旅の記念として、室生犀星

さうさうたる高原である
友よ この高きに立つて眺望しよう。
僕らの人生について思惟することは
ひさしく既に転変の憂苦をまなんだ
ここには爽快な自然があり
風は全景にながれてゐる。
瞳《め》をひらけば
瞳は追憶の情侈になづんで濡れるやうだ。
友よここに来れ
ここには高原の植物が生育し
日向に快適の思想はあたたまる。
ああ君よ
かうした情歓もひさしぶりだ。

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