ハウルの動く城

いまごろやっとですが「ハウルの動く城」を見に出かけてきました。レビューでもしようかと思いますが、まだしばらく劇場公開中なので感想だけを。ストーリーはオフィシャルサイトで。

ハウルの動く城 (スタジオジブリ絵コンテ全集 14)

ハウルの動く城 (スタジオジブリ絵コンテ全集 14)

  • やはり宮崎駿アニメということで、色彩の美しさは当然のことですが、子供を次へ次へと興味を向かせていく場面構成はさすがです。最初に目を引いたのは、ソフィーとハウルが空へと逃げる場面でした。街でソフィーがハウルと出会い、ハウルに連れられて町を風の様にすり抜けていき、敵に追い詰められた時には、空へと飛び上がって空中を歩いて逃げていくシーン。ここから映画の中へと引き入れられて行くのではないでしょうか。場面の先へ先へと自分の方が先に進むようになり、映画の中の主人公へと入っていくわけですね。
  • 個人的な話ですが、詩を書いていると、こういった先に進ませる所が非常に難しくて、基本的に詩は一人で書いているものですから、独りよがりな独白的になりがちです。だから、読んでくれる人に(たいてい、誰の目にも触れず、紙とインクの残骸になるのですが)、出来るだけイメージをわかせる事が出来て、かつ当たり前の出来事の流れではなくて、心の奥に眠っていて普段の自分では築かないようなイメージをだして、印象に残していただく、という様な事を最近は考えているわけです。
  • 詩といえば、主題歌の「ハウルの動く城 主題歌 世界の約束」は、谷川俊太郎さんが作詞をしています。今ならオフィシャルページで詩を見ることができます。始まりの「涙の奥にゆらぐほほえみは 時の始めからの世界の約束」で、「世界の約束」とはっきりと切る事によって、主題を印象付ける所や(9行目でも同じように止めていますね)、3行目の「いまは一人でも二人の昨日から」の「昨日」という言葉が出てくるのは、とても感心させられます。普通は「明日から」とか「今から」とかが凡人の考える流れなのですが、この「昨日」という言葉は、なかなかでてこない。何回もよんで頭に沁みこませておこうと思います。全体として、「思い出」、「あなた」、「世界の約束」、が、世界の始まりから終わりまでを通じて、やさしい香りで包まれている感じがする詩に受けとめられます。
  • 映画に戻りますけど、展開やリズムはいいのですが、今までの作品に比べると、特に訴える物は何もなかったなという感じです。宮崎駿さんの映画の傾向としては、「風の谷のナウシカ」「天空の城ラピュタ」の様に、戦争・自然・科学などの抽象的なテーマの主張を具体的に映像で訴えていく初期の作品から、最近の「千と千尋の神隠し」の様に、人間の成長やエゴといった個人的な事を取り上げていく方向に移っています。今回も、ソフィーという少女が老婆に魔法で変えられて、ハウルを愛していくという事で、その個人に力が入れられているという方向だと思いましたが、ハウルの心理描写も、ソフィーの描写もあまり力が入っていないのではないかなという気がします。いや、あったのかもしれませんが、小出しにしすぎて私には伝わってこなかったのでしょうか。それとも、原作は別の人なので、あまりそこらへんにこだわっていない内容だったのでしょうか。残念です。
  • 伝わってこなかった一つの要因としては、ソフィーの表情の変化があると思います。主人公であるソフィーの感情の気迫が感じられませんでした。過去の作品では「もののけ姫」のアシタカの台詞「その子を解き放て、その子は人間だぞ!」などは、とても気迫があってよかったのですが、今回はそういうのはありませんでしたね。倍賞千恵子の声もあるでしょうが、表情についても一つあるのではないでしょうか。ソフィーは魔法で老婆にされましたが、感情が高まると?あるいは、恋をすると?少女へと変化していくようですが、そちらの変化の方が目立ってしまって、表情から感情が読み取りにくくなってしまっていると思います。少女へと変化するのは、なかなかいい効果ですが、別の所に問題が出てくるんですね。
  • 結局一番興味を引かれた所は、昆虫のような動きの飛行船が出てきたところでした。これは、「未来少年コナン」あたりからの特徴的な形で、作品を長年見ている人には気にとまりますよね。今回の飛行船は、沢山ある羽の動きが、より生物的になっていました。現実的な話とすれば、あんなにのんびり動いていたら飛べないのですが、それでは機械的になってしまうし。表現するのがが難しいのですが、有機的な動きとして、兵器も人間が動かしているという、なまなましさが伝わってきたと言いたい。兵器の見た目は物理的で、へたをすると人と無関係なゲーム世界になりがちですからね。このなまなましさを、次作にでも活かして欲しいと思います。逆に今回では活かした場面は見られませんでした。
  • これは全然関係ない話ですが、声が倍賞千恵子なのは前もって知らなくてもわかることで、おばあさんになった段階で、大変失礼ですがソフィーが倍賞千恵子に見えてきてしまって、正月に寅さんを見てきた年代としては、何かへんな弊害が発生していたような気がします。キャラクターのイメージは難しいですね。老婆のソフィー、少女のソフィー、もうすこし声に変化があったほうがいいのですが、違和感がありました。