舟路

海にして響く艫《ろ》の声
水を撃つ音のよきかな
大空に雲は飄《たゞよ》ひ
潮《しほ》分けて舟は行くなり

静なる空に透《す》かして
青波《あおなみ》の深きを見れば
水底《みなそこ》やはてもしられず
流れ藻の浮きつ沈みつ

緑なす草のかげより
湧き出づる泉ならねど
おのづから満ち来る汐《しほ》は
海原《うなばら》のうちに溢れぬ

さながらに遠き白帆《したほ》は
群をなす牧場《まきば》の羊
吹き送る風に飼はれて
わだつみの野辺《のべ》を行くらむ

雲行けば舟も隨《したが》ひ
舟行けば雲もまた追ふ
空と水相《あひ》合ふかなた
諸共《もろとも》にけふの泊《とまり》へ

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