悲しき玩具

呼吸《いき》すれば、 胸《むね》の中《うち》にて鳴《な》る音《おと》あり。 凩《こがらし》よりもさびしきその音《おと》! 眼《め》閉《と》づれど、 心《こころ》にうかぶ何《なに》もなし。 さびしくも、また、眼《め》をあけるかな。 途中《とちう》…

手套を脱ぐ時

手套《てぶくろ》を脱《ぬ》ぐ手《て》ふと休《や》む 何《なに》やらむ こころかすめし思《おも》ひ出《ひ》のあり いつしかに 情《じやう》をいつはること知《し》りぬ 髭《ひげ》を立《た》てしもその頃《ころ》なりけむ 朝《あさ》の湯《ゆ》の 湯槽《ゆ…

忘れがたき人人

一 潮《しほ》かをる北《きた》の浜辺《はまべ》の 砂山《すなやま》のかの浜薔薇《はまなす》よ 今年《ことし》も咲《さ》けるや たのみつる年《とし》の若《わか》さを数《かぞ》へみて 指《ゆび》を見《み》つめて 旅《たび》がいやになりき 三度《みたび…

秋風のこころよさに

ふるさとの空《そら》遠《とほ》みかも 高《たか》き屋《や》にひとりのぼりて 愁《うれ》ひて下《くだ》る 皎《かう》として玉《たま》をあざむく少人《せうじん》も 秋《あき》来《く》といふに 物《もの》を思《おも》へり かなしきは 秋風《あきかぜ》ぞ…

一 病《やまひ》のごと 思郷《しきやう》のこころ湧《わ》く日《ひ》なり 目《め》にあをぞらの煙《けむり》かなしも 己《おの》が名《な》をほのかに呼《よ》びて 涙《なみだ》せし 十四《じふし》の春《はる》にかへる術《すべ》なし 青空《あをぞら》に消…

我を愛する歌

東海《とうかい》の小島《こじま》の磯《いそ》の白砂《しらすな》に われ泣《な》きぬれて 蟹《かに》とたはむる 頬《ほ》につたふ なみだのごはず 一握《いちあく》の砂《すな》を示《しめ》しし人《ひと》を忘《わす》れず 大海《だいかい》にむかひて一…