物なやみ

青草の茂みの中に
我一人身を横《よこた》へて、
鉄軌《レール》の路《みち》の彼方なる
真夏の城の銀《しろがね》の柵かと見ゆる
白樺の木立《こだち》を遠く眺めつつ、
眺め入りつつ、
ふと、八月のいと暗き物のなやみを、
捉へがたなく、言い難き物のなやみを
思ひ知りにき。――目の前を暗き暴風《はやち》の飛ぶごとく
汽車走せ過ぎて、またたく間《ま》、
白き木立を遮《さへぎ》りし
あはれその時。