2004-12-04 物なやみ 詩 石川啄木 青草の茂みの中に 我一人身を横《よこた》へて、 鉄軌《レール》の路《みち》の彼方なる 真夏の城の銀《しろがね》の柵かと見ゆる 白樺の木立《こだち》を遠く眺めつつ、 眺め入りつつ、 ふと、八月のいと暗き物のなやみを、 捉へがたなく、言い難き物のなやみを 思ひ知りにき。――目の前を暗き暴風《はやち》の飛ぶごとく 汽車走せ過ぎて、またたく間《ま》、 白き木立を遮《さへぎ》りし あはれその時。