室生犀星氏

みやこのはてはかぎりなけれど
わがゆくみちはいんいんたり
やつれてひたひあをかれど
われはかの室生犀星なり

脳はつかれてときならぬ牡丹《ぼたん》をつづり
あしもとはさだかならねど
みやこの午前
杖《すてつき》をもて生けるとしはなく
ねむりぐすりのねざめより
眼のゆくあなた緑けぶりぬと
午前をうれしみ辿《たど》り
うつとりとけなげに
たとへばひとなみの生活をおくらむと
なみかぜ荒きかなたを歩むなり

されどもすでにああ四月となり
さくら燃えれうらんたれど
れうらんの賑《にぎは》ひに交はらず
賑ひを怨《ゑん》ずることはなく唯《ただ》うつとりと
杖をもて
つねにつねにただひとり
坂をくだらむとするわれなり

ああ四月となれど
桜を痛めまれなれどげにうすゆき降る
哀しみ深甚《しんじん》にして座られず
たちまちにして街をさまよふ